Italian Trend
2025年3月
暗殺者のスパゲッティ Spaghetti all’Assassina
「暗殺者のスパゲッティ Spaghetti all’Assassina」が近年、日本とイタリア両国で話題になっている。これはイタリア人でも「聞いたことあるような気もするけどよく知らない」というような比較的新しいパスタで決して昔からある伝統的パスタというわけではない。しかしイタリア料理はつねに革新がスタンダードとなる歴史を繰り返してきた料理なので「暗殺者のスパゲッティ」も近い将来伝統的パスタとして広く認知されるようになるのかもしれない。
このパスタはニンニク、唐辛子を加えたトマトソースの中で直接パスタを茹でる「リゾッタータ」という手法で調理するのだが、ソースの水分を完全に飛ばし、あえて焦げ目をつけるような独特の調理法と迫力あるビジュアルが近年SNSで話題となったのだ。オリジナルはかつてプーリア州バーリにあるレストラン「アル・ソルソ・プレフェリート」のシェフ、エンツォ・フランカヴィッラだったといわれている。とある客のリクエストに応えてこのパスタを作ったところ、その客はあまりの辛さにシェフを「アッサッスィーノ=殺人者!!」と呼んだことに由来すると言われている。
今回実際バーリに足を運び、現在「暗殺者のスパゲッティ 」で最も有名なレストランである「ウルバン・アッサッシネリア・ウルバーナ」を訪れた。メニューを開くと、なんと「暗殺者のスパゲッティ 」はクラッシコからアンチョビ入り、サルシッチャ入りなど14種類もある。中から「クラッシコ」とケイパー、アンチョビペーストを使った「サンジュアンニッデ」をチョイス。果たして登場したそれはカリカリに焼き上がった、香ばしい香りの焼きパスタだった。辛さよりもトマトソースをあえて焦がした濃厚な味が特徴で、太めのスパゲッティもあいまって骨太な印象。見れば周りのテーブルもことごとくこの「暗殺者のスパゲッティ 」を注文しており、いまやバーリが「暗殺者のスパゲッティ 」の街となりつつあるようだ。
レッチェに残るアラブ統治時代に遡る原始のパスタ
バーリから足を伸ばしてレッチェに移動、ここでの目当てはミシュラン1つ星「ブロス」のパスタだ。「ブロス」は過激かつアバンギャルドな料理で話題となっており、シェフのフロリアーノ・ペッレグリーノは東京の「日本料理 龍吟」山本征治シェフの元で修行した経験もある親日家だ。フロリアーノのシグネチャー・パスタ「ティンバッロ」は衝撃的だった。これは一度茹でたスパゲッティを螺旋状に巻いてからココットに詰め、ジビエを詰めてから再び蒸籠で蒸すという非常に手の込んだパスタ。日本で学んだという蒸籠蒸しパスタは表面がつやつやで食感はもっちり。発想は南イタリア伝統の祝いのパスタ、ティンバッロなのだがアプローチは全く異なる、非常に新しいパスタだった。
本来レッチェはプーリア伝統のパスタが色濃く残るパスタ王国であり、中でも「トラットリア・カザレッチェ」ではさまざまなプーリアのパスタが食べられる。オーソドックスならオレッキエッテとチーマ・ディ・ラーパの組み合わせだが、一風変わったパスタを嗜好するなば「チチェーリ・エ・トリエ」がいいだろう。これはヒヨコ豆=チェーチと、茹でたものと揚げたものの2種類の幅広パスタ=トリエをまぜたアラブ起源の料理といわれている。12世紀にシチリアを視察したアラブの地理学者アル・イドゥリシは「イトゥリア」という食品について記述しており、このイトゥリア(またはトリア、複数形はトリエ)はおそらく両シチリア王国時代にシチリアからプーリアにも伝わったものだろう。プーリアでパスタを食べながらパスタ史について想像を含らませるのは、パスタ好き、歴史好きにとってはたまらないひとときである。
Photo&Text MASAKATSU IKEDA (ITALIAN WEEK 100 Director)