Italian Trend
2025年4月

「セレシオネ・オロ・シェフ」と「パスタレボリューション」
今回リニューアルしたバリラの「セレシオネ・オロ・シェフ」。これは厳選されたデュラム小麦を使用、高タンパク、かつ調理中のでんぷん流出を抑え、優れたグルテン品質を実現し高品質を維持できる設計。48時間保存可能で再加熱時間40〜60秒とスピーディーな提供を実現するために開発されたプロ仕様商品だ。ダブルボイルでもアルデンテが持続し、FIC(イタリアンシェフ連盟)認証も取得している。特性のひとつであるダブルボイル=プレコットとは主に茹で時間の長いショートパスタなどをあらかじめ下茹でしておき、調理時間を短縮するイタリア料理の技法。特に昼時に忙しいメンサやトラットリアでよく用いられる手法だ。

現在Italian Week 100に参加する東京の10店舗で開催中の「バリラ × IW100 バリラ パスタレボリューション2025 Primavera」では各シェフがバリラの「セレシオネ・オロ・シェフ」を使った期間限定のオリジナルパスタを提供中だが小麦の品質が高い「セレシオネ・オロ・シェフ」の特性を活かしプレコットの手法を取り入れているシェフもいる。「ザ・モメンタム・バイ・ポルシェ」林祐司シェフの「パスタ・プリマヴェーラ」は、パスタをダブルボイル=プレコットしても変化しにくいという「セレシオネ・オロ・シェフ」のひとつの特性を活かし、ペンネをビーツと紫キャベツの茹で汁で茹でてから一度マリネ。提供前に再度茹でてなめらかな舌触りに仕上げ、白アスパラガスや帆立とともにサーブする。少量でも存在感あるペンネをさまざまな具材とともに味わう、イタリアの春(プリマヴェーラ)を連想させる、林シェフらしい美しくて美味しい逸品だ。

イタリアに伝わる古代調理法から学ぶプレコット
調理法としてのプレコットの起源は意外と古く、古代エトルリア時代やローマ時代から現代に伝わるパスタや調理法も数多く残されている。例えばルニジャーナ地方特有のパスタに「テスタローリ」がある。これはその起源がエトルリア時代にまで遡る古いパスタで、水と粉で作ったクレープ上の生地を鉄板で焼き、さらに茹でてから食べる、つまり乾式加熱を施した後に湿式加熱するというイタリア広しといえども唯一無二の珍品パスタである。

南イタリアを代表するプレコットといえばティンバッロがある。これは18世紀にフランス・ブルボン家が両シチリア王国を統治していた頃に誕生したシチリアを代表するハレの料理である。一度茹でた(プレコット)パスタをベシャメルやラグーであえ、揚げたナスで包んだあとさらにキッシュ用の生地パスタ・ブリゼ(パート・ブリゼ)で包み、オーブン焼きして仕上げる非常に手が込んだリッチな料理だ。これはルキノ・ヴィスコンティの映画「山猫」の中にも登場するシーンがあるので興味がある方は探してみていただきたい。

一方現代イタリアを代表するレストランでも古代の調理法に着想を得たプレコットを提供しているレストランもある。ガルダ湖にあるミシュラン1つ星「リド84」のシェフ、リッカルド・カマニーニはローマ時代の羊飼いの調理法を踏襲した「リガトーニ・カチョ・エ・ペペ」がシグネチャーディッシュだ。これは下茹でしたリガトーニやペコリーノ、黒胡椒など全ての材料を豚の膀胱の中に詰め込み湯煎で仕上げるもの。熱せられて風船のようにふくらんだ豚の膀胱はゲストの前にしずしずと運ばれ、ナイフを入れて初めて空気に触れる。つまり加熱の途中はパスタの茹で加減を味見することもできないのだが2000年前の羊飼いもこれを食べたのか、と思わせてくれること必至。時間を超越した伝統料理の現在進行形である。
Photo&Text MASAKATSU IKEDA (ITALIAN WEEK 100 Director)