Italian Trend
2026年1月
エミリア・ロマーニャ州を訪れ、食の現場を巡る機会があったのでここに一部ご紹介したい。まず最初に訪れたのはボローニャ近郊にある小村サヴィーニョ。アペニン山脈に位置するこの場所はイタリア優秀の白トリュフの産地として知られており、特に10月から12月にかけてはハイシーズンを迎える。今回はトリュフ専門商社「アペニンノ・フード・サービス」のルイジ社長とともに実際にサヴィーニョの森に入り、白トリュフ狩りに出かけた。犬を連れた熟練のトリュフハンターは地形や天気、植生を判断して白トリュフを探すのだがこの日は探し初めて5分もたたないうちにジャガイモサイズの白トリュフを発見。その技術と知識は見事という他なかった。
採れたての白トリュフを手にルイジ社長と向かったのが老舗トラットリア「アメリーゴ」だ。イタリアを代表する正統派として知られる同店は目利きオーナー、アルベルト・ベッティーニのサービスが素晴らしく、何よりもサヴィーニョの伝統料理をハイレベルで提供している。過去にアルベルトの元で修行した日本人料理人も多く「イタリアよりも日本で有名なレストラン」とルイジ社長は語る。この日は秋のトリュフコース仕立てで「森のキノコのズッパ」や「アメリーゴ風トリュフのポーチドエッグ」も素晴らしかったが、秀逸はやはり白トリュフをふんだんに削った手打ちのタリアテッレ。バターと白トリュフの香りが忘れがたい、「アメリーゴ」でも花形料理だ。
次に向かったのがバリラ本社があるパルマで、ミシュラン・イタリア2026アワード前日には「アカデミアバリラ」でプレスと関係者を招待したスペシャル・ガラ・ディナーが行われた。ホストを務めたのはミラノ近郊コルナレードにあるミシュラン2つ星「ディーオー」オーナーシェフ、ダヴィデ・オルダーニだった。ダヴィデは過去ロジャー・フェデラーとともに出演したバリラのCMが人気の、イタリア人なら誰もが知る有名シェフ。この日はバリラのブロンズダイス製パスタ「アルブロンゾ」を使ったパスタコースだった。「アカデミアバリラ」の地下にはペッレグリーノ・アルトゥージやアンナ・ゴッセッティ、古いものならマエストロ・マルティーニらイタリア料理に関する貴重な名著が並ぶアーカイブがあるのだが、一夜限りのスペシャルディナーはそうした名著に囲まれたアーカイブ内にテーブルがセッティングされていたのだ。
ダヴィデは近代イタリア料理の父、グアルティエロ・マルケージで学んだだけにマルケージの名作パスタを再現することも多く「黄金のリゾット」にインスピレーションを得た「銀のスパゲッティ」、「ドリッピング」などのシグネチャーディッシュがあるがこの夜誰もが驚いたのが黒いシートに覆われた「フジッリ・アルブロンゾ ”アル・ネロ” 」が登場した時だ。マルケージの名作「赤と黒」はカンディンスキーの作品をイメージした料理だったが、ダヴィデの黒い「イカスミのパスタ」はイカスミのシートの下にカリフラワーのソースをまとったフジッリがしのばせてあり、口中では確かにイカスミ・パスタの味となるのだ。
続いてメッツィリガトーニとカチョエペペのソースが別々に出され、これをパスタでぬぐって食べる「スカルペッタ」はアイディアも秀逸で、レモンとホースラディッシュを効かせたカチョ・エ・ペペが実に爽やかだった。しかしハイライトは最後に登場したパスタを使ったドルチェ「スパゲッティを使ったティラミス」だった。これはエスプレッソで茹でたスパゲッティを冷やし、カスタードクリームとチョコレートチップのソースに絡めて食べるのだが、これもまた口中ではティラミスになるのだ。オーバーボイルにしたスパゲッティはスポンジケーキのような食感となり、この夜のゲスト全員がうなった。この日ダヴィデが披露してくれた「アルブロンゾ」はイタリアではすでに流通しているが日本発売は今年の予定。その噂の実力を試す機会も間もなく訪れるはずなので期待して待ちたい。
Photo&Text MASAKATSU IKEDA (ITALIAN WEEK 100 Director)