Italian Trend
2026年2月
先月に引き続き、エミリア ロマーニャ州を巡るレポートの続きをお届けしたい。今回まず訪れたのは、パルマ市中心部にある「ボッテガバリラ」だ。ここは2022年に誕生した施設で、1877年に創業したバリラの世界観を体現できるスポット。現在ではパルマを訪れる料理関係者には必須の場所として常に賑わう。1階はバリラのイメージカラーであるバリラブルーとアルブロンゾのイメージカラーである赤の2色でコーディネートされており、ブロンズダイスのディスプレイや大型モニター、パスタをデザインする3Dプリンターなどパスタを多角的に考察できるボッテガ=工房となっているのだ。
「ボッテガバリラ」の地下には専用のキッチンがあり、トレーナーがパスタの解説やデモンストレーションを行ってくれるのだが、今回は特別にアルブロンゾの官能検査(Analisi Sensoriale)というレアな体験をすることができた。官能検査とは人間の五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)を用いて製品の品質や特性を評価する手法であり、数値化できない色や風味、触り心地、音などを人間の感覚で判定する、商品の品質管理には欠かせない重要なプロセスだ。サンプルキットを用いたワインやオリーブオイルの官能検査はすでに体験したことがある人も多いだろうが、パスタの官能検査とは珍しいのではないだろうか。
アルブロンゾの官能検査はまずパスタを茹でたお湯のテイスティングから始まる。塩味以外のノートを探すのがこの検査の趣旨であり、私が感じたのはジャガイモ、トウモロコシ、片栗粉といった澱粉質の成分だが、トレーナーはさらにタンパク質由来の卵白を感じたという。茹で上がったメッツィリガトーニを1つだけ試食する。ここではアルデンテかどうかというのはこの官能検査では重要ではなく、製品の特徴を五感を用いて表現するのである。硬質小麦のほのかな苦味はビターアーモンドを思わせ、香りは焼きたてのトーストを連想させる。ソースをからめたパスタの試食ではなく、こうしたパスタそのものを試す官能検査も一度試してみるとパスタに対する理解力は飛躍的に向上することと思う。
パルマの後はロマーニャ地方のパスタを体験しに古都ラヴェンナに向かった。パッサテッリとはロマーニャ地方からマルケにかけてよく見られるパスタで、伝統的には産後の女性の体力回復のために農家の主婦たち=アズドーレ(Azdore)が作っていた卵、チーズ、パン粉を使ったスープ=タルドゥーラ(Tardura)にその起源があるとされている。現代のパッサテッリはタルドゥーラと同じ材料を用い、時にはレモンの皮やナツメグといった香料が加わる。小麦粉と卵黄で作る一般的な手打ちパスタ生地=パスタスフォリア(Pasta Sfoglia)よりも硬いので、成形するには麺棒やパスタマシンで伸ばすのではなく、ポテトマッシャーに似た専用の器具で押し出すようにして成形する。
ラヴェンナ中心部にある「オステリアパッサテッリ」はその名の通りパッサテッリがスペシャリティ。去勢鶏カッポーネからとったブロードはシンプルながら滋味深く、パッサテッリの粗目の生地がスープをよく吸い込む。ほのかに香るレモンとナツメグが卵によく合い、寒い日や体調を崩した日に食べると体が芯から温まり、胃にも優しい。それは産後の女性たちが食べたというロマーニャ地方の伝統に遡る簡素な料理=クチーナポーヴェラ(Cucina Povera)の延長線上にあり、ユネスコ世界無形文化遺産たるイタリア料理の根幹をなす料理の一つなのだ。
Photo&Text MASAKATSU IKEDA (ITALIAN WEEK 100 Director)