Italian Trend
2025年10月
イタリア広しといえども、パスタに関する貴重な資料の豊富さならばパルマにある「パスタ博物館 Museo dell a Pasta」に並ぶ存在はないだろう。イタリアにおける手打ちパスタの聖地のひとつ、エミリア地方にパスタ博物館を作ろうというプロジェクトはすでに40年以上前から始まっていたのだが、フード・ツーリズムの発達に伴い「パルミジャーノ・レッジャーノ博物館」「プロシュット・ディ・パルマ博物館」「ワイン博物館」「サラーメ・ディ・フェリーノ博物館」「トマト博物館」などと時を同じくした2014年、パルマ郊外にオープンしたのだ。
「パスタ博物館」は小さいながらもそのコレクションは膨大だ。現在ではほとんど入手不可能な貴重な展示物を寄贈したのは作家兼農具収集家エットーレ・グアテッリ 、詩人アッティリオ・ベルトルッチ、そしてバリラを世界レベルにまで引き上げたピエトロ・バリラという3人のパルマ出身者に負うところが大きい。「パスタ博物館」には古代からのパスタの発展の歴史が時系列的に展示されているが、ハイライトは19世紀以降にパスタの大量生産を可能にした、100を超えるブロンズ・ダイス「トラフィーラ」の圧倒的なコレクションだ。
これはかつてのローマにあった唯一の「国立パスタ博物館」にもなかったはずで、パスタを産業として進化させたピエトロ・バリラによる貴重な寄贈物だ。トラフィーラは19世紀末のブロンズ職人が手作りしたものから現代の精巧なものまで様々なものが展示されているが、一見しただけではどんなパスタが押し出されてくるのか想像ができない。スパゲッティ、リガトーニ、ブカティーニは想像しやすいが、ファルファレ、ルマーケ、オレキエッテとなると、一体どうしてこんなデザインが思いつくのか?という工業デザインの極地。イタリア料理関係者は一度訪れてみれば、パスタに関する思いが新たになることだろう。
一方ナポリでのパスタ生産は13世紀には本格化し、ヨーロッパ全土にメイド・イン・イタリーならぬ、メイド・イン・ナポリのパスタが盛んに輸出されるようになった。当時のナポリでは乾燥パスタ全般がマッケローニと呼ばれていたが、これは「栄養ある食べ物」を意味する古代ギリシャ語マカロニアに由来する。現代ではナポリ近郊グラニャーノが乾燥パスタの製造が非常に盛んであり、南イタリアで史上初めてミシュラン3つ星を獲得したナポリ近郊ソレントの「ドン・アルフォンソ」もグラニャーノのパスタを使用していたことで一躍ガストノロノミーの世界でも有名になった。
またナポリ近郊は食材の宝庫でもあり、そうした優秀な食材がパスタと結びつき、永世定番ともいえるレシピへと昇華した。その代表がコロンブスが南米から持ち帰ったトマトである。当初は鑑賞用だったがヴェスヴィオ山麓の石灰質の土壌と出会い、イタリア料理には欠かせない食材となった。タマネギと牛肉を煮込んだソースがなぜナポリではジェノベーゼと呼ぶかというと、15世紀にナポリの港でジェノヴァ人たちが喜んで食べたからという説と、ジェノベーゼという料理人が最初に作った、というふたつの説がある。 真偽はさておきこうしたパスタの逸話に満ちているのがパスタの聖地への旅の醍醐味なのである。
Photo&Text MASAKATSU IKEDA (ITALIAN WEEK 100 Director)